「『学歴詐称』が問題になる場合」について、

5/16の書き込みに対してレス付けてくれた方ありがとうございます。

 私として、学歴の過少申告も当然「学歴詐称」に当たることとして疑ってなかったのですが、世の中にはいろいろな考え方というものがあるものですね。参考になりました。
 ことのついでなので、少々調べてみました。

 まず整理しておかなければならないことは、

  1. 事実と異なる低学歴を称することが「学歴詐称」かどうかということ
  2. 事実と異なる低学歴を称することが「『学歴詐称』として問題となる」かどうか

は別次元の問題でしょう。(1)は殆ど言葉の問題であるのに対して、(2)は現実的・事実的問題でしょう。

(1)の問題として考えれならば、
 詐称とは辞書によりば「氏名・職業・年齢などをいつわって人をだますこと。(*1)」 と説明されています。これから「学歴詐称」を素直に解釈すれば、「学歴を偽って人をだますこと」となり、「学歴を偽る」には低学歴を除外する理由は見あたらないですね。

 まあ、私は言語学者ではないので、この手の言葉の問題には深入りしたくはないですね。

(2)の現実的・事実的問題として考えてみると

給与小六法等を見てもらうとわかるのですが、公務員の給号俸を決める際には、その人の学歴が基本になりたとえ中退していたとしても単位取得状況及び在籍年数によって若干上積みされていくので、正確に把握しなければならない、と言われました。
ただし、これはあくまで本人にとって結果的に有益的処分ですから、
あくまで自己申告に委ねるのが原則である、

とは、某掲示板より さんからのレスの引用です。

 採用の際に提出する履歴書等は、採用希望者が採用者側に申告するものであるので、受け取る側が「問題なし」ということであれば問題はなく、「これは問題だ」(*2)やはり問題となるでしょう。基本的には、採用希望者側と採用者側との2者間の関係であると思います。
 私は人事の仕事をしたことは無いのですが、同じ公務員でも役所によって採用に対する考え方にはかなり温度差があるように感じます。だって役所によって職種は多種多様であり、そこに必要な人材というものは種々異なるのですから当然のことですよね。ある職種を採用する場合、この部分は「自己申告で十分」とできても、この職種では「それでは困る」ということはあり得ます。
 まあ、私が役人根性的に「委ねるのが原則」と説明されると、「違ってもOKなのね」と思ってします。
 「原則」・・・「理由がないときはその通りすること。特別な理由があれば、その方式でも構わないこと。」として処理していますので。

実際、それ以外の身上調書等は最終学歴しか書かせないのが原則です。

掲示板より さんからのレスの引用です。

 同じ公務員でも自衛隊の身上調書は細かかったですよ。高校以降全て、定時制、夜間、専門学校、予備校、大学、大学院、大学研究生の全てを明示で要求しています。某県の学校の教員採用の学歴欄には小学校から入学、卒業の日まで要求していました。原則が、場所によって異なる好例ですね。

例えば宗教系の大学に夜間通っていたとして、それを漏らさず
勤務庁に通知する義務があるとすれば、思想良心の自由、ひいては
信教の自由を侵す、と主張される可能性もありますから。

掲示板より さんからのレスの引用です。

 これは、思想・良心の自由の問題と思いますけれど、あまりにも有名な麹町中学内申書事件判決では、内申書に「校内において麹町中全共闘を名乗り、機関誌を発行、文化祭の際に粉砕を叫んで、他校の生徒と共に校内に乱入ビラまきを行った等」「ML派の集会に参加」と記載されたため受験したすべての高校に不合格と国家賠償法による損害賠償を請求したのですが、最高裁は「いずれの記載も、上告人の思想、信条そのものを記載したものでないことは明らかであり、右の記載にかかる外部的行為によっては上告人の思想、信条を了知し得るものではないし、また、上告人の思想、信条自体を高等学校の入学者選抜の資料に供したものとは到底解することができない」としました。

 どの大学に通ったかということは、あくまで事実行為についての申告を求めているにすぎないので、思想・良心の自由を侵すという主張は、まず今の最高裁は認めないでしょう。

 また、民間企業であれば、例えば三菱樹脂事件最大判昭48.12.12)では「企業者は・・・契約締結の自由を有するのであって、それゆえ、企業者が特定の思想・信条を理由に雇入れを拒んでも、当然に違法とはいえない」としています。さらにこの判決では「企業者が労働者の採否の決定にあたり、労働者となろうとする者の思想、信条を調査しこれに関連する事項についての申告を求めたとしても違法ではない」とキッパリ判示しているので、採用時に申告を求めることは問題とならないでしょう

 まあ、一旦雇用した者を解雇する場合に、特定の信条を有することを理由に解雇することは違法とした判決もあるようですが、これは解雇の場合の話です。

 さらに探していくと、最高裁としては、履歴書の経歴欄は信義則上真実を告知する義務を負うとしていますし、学歴の過少申告についても「経歴をいつわり・・・雇い入れられたとき」に該当するとして懲戒解雇も認めています。(炭研精工事件 最一小判平3.9.19 労判615・16)

 まあ(2)現実的・事実的問題としも、学歴の過少申告は「学歴詐称として問題となりうる」と認識しておいた方がいいでしょうね。

*1:大辞林 第二版 (三省堂)より引用

*2:採用者側の考えが公序良俗に反する場合を除く