FX業者の倒産は論文答案風に書いてみる

 昨日(2005/11/17)の読売新聞によると、大阪のFX(外貨証拠金取引)業者ワールドスコープが破産したという。
 負債総額は38億8700万円。負債の大半は顧客520人から預かった証拠金という。
 手数料収入だけでは収益が上がらないので、自社売買して失敗したという。この業者の罪責はいかに? 論文試験の回答風にまとめました。


【発想】
 一人あたり700万円以上の損害を出している。甘い言葉に誘われた顧客自身にも責任が無いではないが、それより悪いのは業者であろう。何とか有罪にする結論を出したいところ・・・。
 詐欺罪に問うには、欺罔行為が必要なところ、顧客にFXの優位性を強調して勧誘することが欺罔にあたるかが問題。横領罪に問うには、預かり金を着服したにあたるかどうかが問題ですね。


【論文試験風に】

 本件、外貨証拠金取引業者(以下「当該FX業者」という)は、顧客から多額の資金を集めながら、外貨の自社取引により多額の負債を追うこととなり、顧客資産の返済を不可能なものとした。当該業者はいかなる罪責を追うか。

1.詐欺罪の成否

1.1 詐欺罪の要件
 詐欺罪が成立するためには、1.欺罔行為により、2.被害者が錯誤に陥って、3.処分行為を為す必要がある。

1.2 欺罔行為について
 被害者が処分行為を為した時点は、当該FX業者に証拠金を預け入れたときと解するのが相当である。なぜなら、証拠金取引口座を開設しただけでは、被害者がどれだけの金額を何時、当該FX業者に交付するかは全くの任意であるので、この時点で交付がされたということはできないからである。被害者が欺罔行為により処分行為を行ったというためには、処分行為(証拠金預け入れ)の前に欺罔行為が為されなければならない。
 本件において、被害者が自発的に口座を開設し証拠金を預け入れた場合には、当該FX業者が欺罔行為を為す機会自体が無いわけであるし、また、当該FX業者社員による勧誘により取引を開始した場合においても、その勧誘が社会的相当性を欠く違法な勧誘であると認めるべき特段の事情を除くほか、勧誘行為が欺罔行為とすることは困難である。

1.3 詐欺罪の成否
 よって、本件において、欺罔行為により処分行為が為されていないので、詐欺罪は成立しない。

2.業務上横領罪の成否

2.1 業務上横領罪の要件
 業務上横領罪が成立するためには、1.その業務において他人の物を占有する者が、2.その占有する他人の物を横領する、ことを要する。

2.2 「業務おいて他人の物を占有する者」にあたるか
 当該FX業者は、業務として不特定多数の者から証拠金として資金を預かり、管理している者である。ただ、預かった証拠金が自社の資金と渾然一体となって管理されており、この一部について「他人の物」と言えるかが問題となる。
 民法上、金銭はその高度な流通性、代替性により、占有移転によりその所有権を取得する。しかし、その寄託者の意志を保護すべきことや、金銭を使途目的別に管理することは容易であるから、その信託委任関係を保護する必要性から、使途目的を定めて寄託された金銭は「他人の物」と解すべきである。
 従って、顧客より証拠金を受け入れた当該FX業者は、業務において他人の物を占有する者にあたる。

2.3 「占有する他人の物を横領した」にあたるか
 当該FX業者は、顧客より受け入れた証拠金を自己の資産と一体として管理しているのであるから、自己の資産をその正当な業務のために費消することは横領にはあたらない。しかしながら、当該FX業者は、不特定多数の顧客から多額の資金を預かり業務を営んでいるのであるから、顧客資産の管理については売買等の双務契約で発生する債務の管理より相当高度な責任を負うものである。従って、横領にあたらない正当な業務による費消となるためには、専門的知識をもって相当な注意を払い顧客資金に損害を与えぬよう管理したとしても避けられない経費による費消されたものであることが必要と解する。
 本件において、当該FX業者は、自社資金により通貨取引を行ったものであるが、その取引が純粋な自社資金の範囲で行われていたものであるとしても、通貨取引は、当初予定していた以上に損害が大きくなる可能性のある取引行為であることはその業務の性質上、当該FX業者は容易に知り得、またその損害が自社資金を超えて顧客資金に損害が及ばないように管理すること容易なはずである。従って、当該FX業者は専門的知識を持って相当な注意を払い管理していたとは言えず、漫然と通貨取引を行うことにより顧客資金を費消したことは横領に相当する。
 従って、当該FX業者は、占有する他人の物を横領した者にあたる。

2.4 業務上横領罪の成否
 以上により、当該FX業者には業務上横領罪が成立する。


結論
 当該FX業者は業務上横領罪の罪責を負う。


以上 1647字
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チーティング 「他人の物」について、金銭の占有移転と所有権の部分